関西最多の初詣参拝者を誇る伏見稲荷大社の1月前半は、元旦に行われる歳旦祭に始まり、大山祭・奉射祭・成年祭と、重要な神事が立て続けに行われます。
この記事では、重要神事の一つ「大山祭(おおやまさい)」の詳細についてご紹介していきます。
伏見稲荷大社・大山祭とは?
大山祭は、伏見稲荷大社で毎年1月5日に行われる神事です。
伏見稲荷大社の宮司及び祭員(以下「祭員一行」とします。)が稲荷山の旧蹟を参り、神酒を供え新年の五穀豊穣を祈願します。
大山祭当日は早朝に「稲荷山七神蹟の外玉垣に注連縄を張る「『注連張神事(または注連縄懸神事)』」が行われ、お昼からは本殿の儀と山上の儀が斎行されます。
- 時間:12時〜
- 場所:本殿
- 時間:13時30分〜
- 場所:御膳谷奉拝所(祈祷殿)
伏見稲荷大社・大山祭の歴史
大山祭の由来は諸説あり、詳しい歴史などは不明ですが、その昔、伏見稲荷大社の社殿は稲荷山の山上にあり、稲荷山中腹の御膳谷は斎場として使われていました。
御膳谷が斎場だった頃は、「御饗殿」と「御竈殿」が建てられており、御饌石と呼ばれる霊石の上に神饌(神様への供物)をお供えしたと伝えられています。
上記の故事に因み大山祭は行われ、五穀豊穣や家業安全を祈念する重要な神事となっています。
伏見稲荷大社・大山祭:本殿の儀
伏見稲荷の初詣客は5日経っても全然減りません。境内は人、人、人です。
この大賑わいの中、12時から祭員一行によって本殿の儀が行われます。
本殿の儀については実際に見ていませんし、資料が少ないので詳しいことはわかりませんが、だいたい30〜40分ほどで終わるようです。
本殿の儀終了後、祭員一行は列になり稲荷山を登っていきます。
本殿の儀は撮影禁止です。
伏見稲荷大社・大山祭:山上の儀
山上の儀は、本殿から歩いて40分ほどかかる御膳谷奉拝所で行われます。
当日の御膳谷には浅黄幕が張られ、いつも御饌石を囲っている瑞垣は取り払われます。
12時頃から用意された参列者用の椅子に人が集まり始め、普段静かな御前谷は多くの人で混雑します。
13時半前頃、御供物と御唐櫃を先頭に祭員一行が到着。その後、山上の儀が始まります。儀式の内容は「酒のお供え」や「玉串奉納」「御神楽」など。
御神楽中は雅楽器の演奏が山に響き、御前谷はとても神聖な空気に包まれます。
「酒のお供え」では、中汲酒(濁酒)を盛った70枚の斎土器を御唐櫃から取り出し、御饌石の上にお供えします。
斎土器は耳の形に似ていることから「耳土器」とも呼ばれ、祭典終了後に有料で授与されます。
伏見稲荷大社・大山祭の御神酒と日陰蔓
山上の儀は約30分で終了。
祭員一行および参列者はテントに集まり、御神酒と「ひかげのかずら(日陰蔓)」をもらいます。
御神酒はお米が入っていて、甘酒のような見た目でした。
とてもまろやかで美味しく、「本当に無料で頂いていいのかなぁ」と少し申し訳ない気持ちに。
「ひかげのかずら」は、天岩戸開き神話内で天宇受賣命が天照大神の再生を祈念して身につけた「天之日影」と同様のものであり、生命力が強いことから縁起がいいとされています。
一年中この美しい緑色を保つといい、小さくまとめて玄関に飾ると魔除けになるとのこと。
伏見稲荷大社・大山祭の七神蹟巡拝
大山祭の後、祭員一行および参列者は「ひかげのかずら」を首にかけ、稲荷山七神蹟を巡拝していきます。
参拝する順番は「御前谷」を出発し、「長者社(御劔社)」「一ノ峰(上之社)」「二ノ峰(中之社)」「間ノ峰(荷田社)」「三ノ峰(下之社)」、そして最後に「荒神峰(田中社)」。
参列者は祭員一行の後ろをついていき、一緒に「二礼二拍手一礼」を行います。
ちなみに、長者社では杉の小枝がいただけます。
右耳あたりにかざすといいそうです。
余談:昔の大山祭はケガ人続出だった!?
大山祭で使われる斎土器は、古くから福徳開運や商売繁盛など様々なご利益があるといわれ、とても重宝されてきました。
特に酒造家の間では、「破片を醸造に使用すると水質を澄ませ良いお酒ができる」という信仰があり、全国各地の酒造家が代参に訪れたといいます。
昔の大山祭では、祭典終了後にこの斎土器を奪い合っていたそうです。
ほんの一欠片でも貰おうとする様子は、アメリカンフットボール並みに激しく、勇壮な行事として長い間知られていました。
その激しすぎる奪い合いにケガ人が続出。
昭和37年(1962)に形式が改められ、有料授与に変更されたということです。
下の画像は都年中行事画帖(昭和3年/1928)に収録されている大山祭の絵。
祭典終了を今か今かと待ちわびる沢山の男性たちの姿が描かれています。
同書の解説文には「殺気満ちわたり」とあり、祭の凄まじさが伝えられています。
伏見稲荷大社・大山祭の基本情報
開催日 | 1月5日 |
時間 | 本殿の儀:12:00 山上の儀:13:30 |
拝観料 | なし |
住所 | 京都市伏見区深草薮ノ内町68 |
アクセス | ・JR「稲荷駅」から徒歩すぐ ・京都市営バス「稲荷大社前」から徒歩約8分 ・京阪本線「伏見稲荷駅」から徒歩約5分 |
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参考文献
- 南日義妙『稲荷をたずねて』,1974年
- 京都新聞社『伏見稲荷大社』,1984年
- 深草稲荷保勝会『深草稲荷』,1998年
- 三好和義『日本の古社 伏見稲荷大社』,2004年
- 中村陽監修『イチから知りたい日本の神さま2 稲荷大神』,2009年
- 佐和隆研『京都大事典』,1984年