京都市上京区にある臨済宗相国寺派大本山の相国寺。
その境内の鐘楼近くに「宗旦稲荷社(そうたんいなりしゃ)」という小さなお社があります。
このお社に祀られている「宗旦狐(そうたんぎつね)」には、様々な逸話が残されています
この記事では様々な文献を参考に、この宗旦狐や宗旦稲荷社について詳しくご紹介させていただきます。
「宗旦」の由来は千宗旦
宗旦狐について説明する前に、名称の由来になっている「千宗旦」について軽く触れておきます。
千宗旦は江戸初期に活躍した茶人です。
あの有名な千利休の孫で、父の千少庵から譲られた利休の遺跡を継ぎ、茶の道統を作り上げました。
現代まで受け継がれている有名な茶道の流派「三千家」は、宗旦から始まったものです。
さて、この宗旦と宗旦狐にはどのような関係があったのでしょうか。
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千宗旦と宗旦狐
ある日、相国寺塔頭・慈照院で、茶室「頤神室」の茶室開きが行われました。
茶会に遅れたやってきた宗旦が茶室に入ってみると、驚きの光景が広がっていました。
なんと、茶室にはもう1人の宗旦がいたのです。
もう1人の宗旦は、茶室の亭主席に座っており、見事な点前(茶をたてる作法)を披露していました。
その点前は宗旦が息をのんで見入るほど素晴らしいもので、同席した人は誰も偽物の宗旦だと気付かなかったといいます。
宗旦のドッペルゲンガーが現れたという話ではなく、もう1人の宗旦の正体は、宗旦の姿に化けた白狐だったのです。
相国寺の境内に住んでいたこの白狐は、宗旦のことを深く敬愛しており、宗旦の点前を見よう見まねで習得していたのでした。
いつしか「宗旦狐」と呼ばれるようになった白狐は、たびたび宗旦の姿に化けては宗旦の知らないうちに茶会へ出席し、宗旦の代理として見事な点前を披露していたといいます。
仏門に入りみんなに愛された宗旦狐
「宗旦がもう1人いる」と考えた宗旦の弟子たちが、偽物の宗旦を問いただしたところ、「私は白狐です。宗旦の点前にあこがれて修行に励みました。もう二度と悪さはしません。」と姿を現して詫び、その場から逃げ去りました。
宗旦狐はその後も宗旦に化けましたが、改心したのか茶会に出席することはなく、お寺の修行僧たちに混じって見よう見まねの修行をはじめ、共に坐禅を組んだり、托鉢に行くなど、相国寺のために尽くしたといいます。
修行を重ねるうちに神通力を手に入れた宗旦狐は、人々の前に姿を現すようになりました。
経営難に陥った豆腐屋は宗旦狐のお告げにより再建することができ、灸屋はお告げのお陰で大繁盛。
また、貧しい人々には陰膳の施しを与えていたといいます。
時には門前でお寺の和尚との囲碁に興じ、熱中するあまりうっかり尻尾が出てしまうことがあり、指摘されると尻尾を引っ込めたというおちゃめな話もあります。
偽物の宗旦の正体が狐ということは周知の事実でしたが、その”人”柄の良さから宗旦狐はみんなの愛され者になりました。
悲しい宗旦狐の最期と宗旦稲荷社建立
みんなの愛され者だった宗旦狐。
しかし、その最期は少し悲しいのです。
宗旦狐のお告げにより経営難から再建した豆腐屋は、お礼に狐の好物である「ネズミの天ぷら」を宗旦狐に与えました。
宗旦狐はネズミを食べると神通力が無くなると知っていましたが、好物には逆らえず食べてしまいます。
宗旦姿だった宗旦狐は、たちまち狐の姿に戻ってしまい、近所の犬たちに追いかけられます。
竹藪に逃げ込みましたが、慌てていたのでうっかり井戸に落ちてしまい、そのまま絶命してしまいました。
善意であげたネズミの天ぷらが原因で死亡…。なんとも悲しいエピソードです。
ちなみに、他にも自らの死期を悟って別れの茶会を開いた、猟師に鉄砲で撃たれて死亡したという伝えもあります。
その後、宗旦狐の死を哀れに思った相国寺の修行僧らによって、供養の意味も込めた「宗旦稲荷社」が建立されました。
宗旦狐を祀る宗旦稲荷社は、「開運・商売繁盛」の神として今日でも篤く信仰され、2月には初午祭、11月にはお火焚祭が催行。
祭事の際は宗旦狐を偲び、近くにある豆腐屋の油揚げがお供えされるそうです。
宗旦狐が慌てて逃げた頤神室
相国寺から北西に少し歩いたところにある慈照院には、今でも宗旦狐ゆかりの頤神室が残されています。
頤神室の窓は、宗旦狐が慌てて突き破ったあとを修理したため、一般的な茶室の窓より大きくなってしまったとのこと。
頤神室は「宗旦好みの席」とも呼ばれ、内部には宗旦狐の軸がかけられています。
慈照院は通常非公開ですが、「京の冬の旅」などで公開された際は拝観してみてはいかがでしょうか。
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宗旦稲荷社へのアクセス
- 京都市営バス「同志社前」から徒歩約6分
- 京都市営地下鉄烏丸線「今出川駅」から徒歩約7分
宗旦稲荷社の基本情報
御祭神 | 宗旦狐(白狐) |
拝観料 | 無料 |
参拝可能時間 | いつでも可 |
祭事 | ・2月の初午:初午祭 ・11月:お火焚祭 |
住所 | 京都市上京区相国寺門前町 相国寺境内 |
公式HP | https://www.shokoku-ji.jp/guide/#no14 |
参考文献等
- 京都魔界ガイド 監修:東雅夫 2016
- 稲荷をたずねて 著者:南日義妙 1987
- 京都大事典 著者:佐和隆研 1984
- 上京 史跡と文化 VOL.49 発行:上京区民ふれあい事業実行委員会 2015
- 京都の「ご利益」徹底ガイド 著者:丘眞奈美 2007
- ふるさと昔語り 京都新聞 2007
- 宗旦稲荷社駒札
- 慈照院駒札