京都の人気観光地「伏見稲荷大社」。
全国に約3万社ある稲荷社の総本宮・伏見稲荷大社の境内には、数え切れないほどたくさんの狐が祀られています。
その狐の口元を見てみると…
この記事では、複数の文献を参考に、伏見稲荷大社の狐がくわえているものや「玉鍵信仰」などについてご紹介していきます。
この記事でわかること
- 伏見稲荷大社の狐がくわえているものの種類
- 狐がくわえているものの意味
- 伏見稲荷大社に伝わる玉鍵信仰
- 花火のかけ声「たまやー」「かぎやー」の由来
伏見稲荷大社の狐がくわえているものは4種類
伏見稲荷大社の境内にいる狐たちがくわえているものは、「稲穂・巻物・玉・鍵」の全部で4種類あります。
一部何もくわえていない狐もいますが、多くの狐は4種類のどれかを口に咥えています。
この4種類にどんな意味が込められているのでしょうか。
狐がくわえている『稲穂』の意味
- 稲荷大神の恵み、福の象徴
- 稲荷大神が五穀豊穣の神であることから
伏見稲荷大社の神紋にも使われている稲穂は、昔から人間の霊肉を活かして養う霊妙な力があると信じられており、稲荷信仰において信仰対象の一つになっています。
稲穂に関する逸話は複数存在し、伏見稲荷大社の由緒となっている「餅の的」にも登場しています。
大量の稲を収穫して富裕となった秦氏が餅を的にして弓を射たところ、餅は白鳥に化し、山上へ飛び去っていった。
降りたったところには稲が生じていた。そこからイナリという社がはじまった。山城国風土記逸文より(意訳)
「稲荷」という言葉は上記のエピソードからきていると言われています(諸説あり)。
また、狐が稲荷大神のお使いとなった説の中に「尻尾の形が稲穂に似ていること」「稲穂の色が似ていること」があり、伏見稲荷大社の鳥居や本殿で使用されている「朱色」は、「稲穂の色からきている」という説まで存在しています(諸説あり)。
ちなみに伏見稲荷大社では毎年、境内の神田で稲作を行っています。
4月の水口播種祭に始まり、6月に田植祭、10月の抜穂祭と続きます。
狐がくわえている『巻物』の意味
- どんな願いも叶うという稲荷の秘法を表すシンボル
- 稲荷大神の御神徳が書かれている
- 知恵の象徴
1つ目の「稲荷の秘法を表すシンボル」は、伏見稲荷大社の宮司さんが監修している書籍内で紹介されているものです。
また、巻物は神仏習合時代に用いられていた「経文(荼枳尼天秘法/荼吉尼教典)」とも言われています。
狐がくわえている『玉(宝珠)』の意味
- 穀霊の象徴
- 稲荷大神の徳光を表したもの
- 稲荷大神が秘める霊妙な神徳を象徴
玉は昔から「神の霊力」を象徴するものとされ、神話にもたびたび登場しています。
古い信仰では「玉=稲の霊魂」とされており、後述する鍵と同様に重要な信仰の対象になっています。
この模様は、燃え上がる稲荷大神のミタマの力を示していると考えられます(無いものもあり)。
狐がくわえている『鍵』の意味
- 稲荷大神の宝蔵を開く秘鍵を象徴
- 稲荷大神の御神徳の広大さを表したもの
- 心願成就の神徳を表したもの
- ミタマを身に着けようとする願望の象徴
この「鍵」の由来も諸説あり、1つは「米倉の鍵」。
稲荷大神が五穀豊穣の神であることからきた考えと思われます。
もう1つは「昔の人の生活に必要だった『木の股の鉤』の効用」。
この説は伏見稲荷大社発行の書籍等で紹介されており、鍬の柄などに用いられていた鉤形の木の股はとても貴重だったため、昔の人たちは一種の魔力があるように考えていたそうです。
また、別の書籍によると、昔は「鍵=稲を刈る鎌」という信仰もあったようです。
伏見稲荷大社では「達成のかぎ」と「達成のかぎ守」を授与しています。
達成のかぎ守は気軽に身につけることが出来るお守りなので、特にオススメです!
達成のかぎ(2000円)
達成のかぎ守(1000円)
伏見稲荷大社のお塚の狐がくわえるているのは?
伏見稲荷大社の稲荷山には、約1万基を超えるという「お塚」が奉納されており、共に狐も安置されています。
狐がくわえているものは、ほとんどが「巻物と玉」。
なぜ巻物と玉なのかは不明です。
裏参道の間力教会のお塚には「玉と鍵」を踏んでいる狐もいます。
伏見稲荷大社の「玉鍵信仰」とは?
稲荷信仰には「玉鍵信仰」というものがあります。
玉と鍵は陽と陰、天と地を示しているもので、万物はこの2つの働きによって生成され、育っていくことを象徴しているといいます。
また、お使いであるそれぞれ狐が玉と鍵をくわえている姿は、稲荷大神の神徳(福)が狐によって人間に運ばれることを示すと同時に、人間の願望を預かって稲荷大神へ届けようとする信仰を象徴しているそうです。
「神様のお使いってどういうことをするんだろう?」と思っていましたが、実は神様からの「ご利益」と人間からの「願い」を運んでいたんです。
とてもありがたい存在ですね!
余談:打ち上げ花火の「たまや〜」「かぎや〜」
打ち上げ花火が上がったときに上がる定番の掛け声「たまや〜」「かぎや〜」。
一度は聞いたことあるであろう有名な掛け声ですが、実は狐がくわえる「玉と鍵」が関係しているんです。
そもそもこの「たまや〜」「かぎや〜」というのは、江戸時代に活躍した花火屋の屋号「玉屋」「鍵屋」のこと。
鍵屋の七代目番頭として働いていた清七は、腕の良さからのれん分けが許され、お稲荷さんの使い・狐がくわえる玉から取った「玉屋」を開業します。
清七がお稲荷さんにあやかった理由として考えられるのは、「商売繁盛」と「火除・火防」のご利益。
江戸時代、「伊勢屋、稲荷に犬の糞」と言われるほど稲荷の祠は江戸中に祀られ、稲荷信仰は爆発的に流行。
お稲荷さんは「商売繁盛の神」として定着していきました。
この一大ブームに乗ってあやかったのかもしれません。
また、お稲荷さんは時代や状況に応じて性格を変えるもので、火を自在に制御する「火神」でもあります。
江戸時代の過密な住宅事情によりお稲荷さんは「火除・火防の神」としても信仰されていき、「狐火、狐が災いを予兆する」という連想も生まれました。
花火屋はもちろん火気厳禁。
「火事が起きませんように」とあやかっていたのでしょう。
ちなみに…
玉屋は失火により焼失し現在は残っていません。
火除のご利益を得られなかったのでしょうか…。
他にもあった「玉・鍵」を冠するお店
下の画像は「再撰花洛名勝図会 東山之部(元治元年/1864)」の一部。
伏見稲荷大社の門前にあった「玉カギヤ(鍵屋)・玉ヤ(屋)」というお店が名前付きで描かれています。
「都林泉名勝図会(寛政11年/1799)」には、もっと近くに寄った玉鍵屋と玉屋が描かれており、よく見ると暖簾に鍵や玉が染め抜かれている様です。
この2店は現在残っていませんが、社門前では名の知れたお店だったそうです。
昔は狐がくわえている物にあやかったお店が沢山あったのかもしれませんね!
まとめ
以上、伏見稲荷大社の狐がくわえている「稲穂・巻物・玉・鍵」の紹介でした。
少しでも伏見稲荷大社や稲荷信仰について興味を持ってもらえたらうれしいです。
境内に祀られている狐は、顔や雰囲気、くわえている物の形がすべて違います!
ぜひ、狐の表情を眺めながら、境内を巡るのも楽しいかもしれませんね!
この記事でも参考にさせていただいた「伏見稲荷大社宮司・中村陽氏監修の『稲荷大神 (イチから知りたい日本の神さま)』」は、稲荷信仰について詳しく書いてあります。
非常にわかりやすい本ですので、伏見稲荷大社を始めとする稲荷神社や稲荷信仰に興味がある方にオススメです!
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参考文献一覧
- 伏見稲荷大社『稲荷の信仰』,1951年
- 南日義妙『稲荷をたずねて』,1974年
- 伏見稲荷大社講務本庁『稲荷講志』,1977年
- 京都新聞社『伏見稲荷大社』,1984年
- 三好和義『日本の古社 伏見稲荷大社』,2004年
- 中村陽監修『イチから知りたい日本の神さま2 稲荷大神』,2009年
- 伏見稲荷大社『伏見稲荷大社御鎮座千三百年史』,2011年